「シンスケ風炒り豆腐」完全版

2020年4月の「最初の国家緊急事態宣言」の際、SNS経由でステイホーム推進運動がまわってきました。企画の初志はともかく、【己の次に、2人の料理関係者に回す】ルールにpay it forwardよりも同調圧力を感じて困惑。とはいえ、顔を立てて筋を通すため「2冊の書籍の紹介という形で収めていいなら」と協力しました。

いま、その記事のレシピ部分を幾度となく誌面に取り上げていただいているのですが、いちばん伝えたかった【本題】がトリミングされてしまっている。

補完として、元記事を公開します。



【料理リレー】2020年4月28日 プライバシー設定: 公開 料理家の脇雅世さんが発起人となって始まった「料理リレー」。 “家にある材料で、簡単に作れる料理”を料理家・シェフがリレー形式でレシピ紹介して行きます。

湯島天神下にて「シンスケ」という酒場を営む矢部直治と申します。 級友で弓友のキュートなミズ・シルバースプーン「オグちゃん先生」からバトンタッチ。 家業11代目な自分が紹介するのは、いまやとんとお目にかからなくなった東京下町のおかず【炒り豆腐(いりどうふ)】。

この料理のルーツは江戸時代後期。料理本『豆腐百珍』のために考案されたもので、当時は〈ごま油で炒った豆腐に青のりと醤油をかける〉スタイルだったようです。

我が家には〈豆腐と野菜のきんぴらのようなお惣菜〉という形で伝わっており、祖母から習った時「ひいおじいさんの好物でよく作らされたのよね。茹で三つ葉と揉み海苔をかけるのが流儀だった」と聞かされました。

2006年くらいだったかな、その味を酒肴に仕立てなおしてメニューに載せたところ、一部のお客様から熱烈に支持いただいて今に至ります。 (とくに編集者・岡本仁さんとイラストレーター・原田治さんには何度もお代わりいただきました)


●シンスケ風 炒り豆腐 <基本材料> ・根菜類(ゴボウ、ニンジン、ウド、レンコン、大根など) ・キノコ類(エノキ、シイタケ、シメジ、エリンギなど) ・タンパク類(肉、魚、貝、カマボコ、生麩など) ・もめん豆腐 ・炒め油 ・基本の味つけ(みりん、酒、濃口しょうゆを同割りで) ・甘味料(砂糖、はちみつ、水あめ、メープルシロップなど) ・たまご ・長ネギ

今回はご時世を反映して、コンビニ(ミニスーパー)で買える食材で組み立てました。基本、豆腐と野菜と卵があれば成立しますのでお気楽にどうぞ。


<材料> ゴボウ1/2本、ニンジン1/2本、エノキひとつ、ベーコンひとつ、木綿豆腐1丁、刻みネギひとつ、缶めんつゆ120ml、メープルシロップ30ml、太白ごま油、たまご2個

ご家庭では、上記の1/2の材料で十分なのですけど、煮汁の蒸発が早く失敗しやすいので倍にしてあります(完成8人前)。 常備菜やお弁当にされるなら、水溶きのくず粉(片栗粉)をたまごに混ぜ入れると煮汁が分離しません。


<作り方> コツはふたつ。 ひとつは、まず「炒め料理」ではなくて「煮込み料理」だと認識すること。材料のエキスを煮汁に抽出し、豆腐に味を含ませるのがキモです。 もうひとつは「茹でたて崩したてのやわらかジューシー状態の豆腐」調理を同時進行し、ふわふわなうちにフライパンへ投入すること。

1.野菜、キノコ、肉を食べやすく切る。野菜は千切りスライサーを使うと味がしみこみやすい(切り口が荒いので) 2.鍋に水と豆腐を入れ、沸騰したら2分ほど中火で茹でて火を止める(保温)。 3.フライパンに白ゴマ油と「1」を入れて強火で炒める。野菜がしんなりしてきたら、合わせだしと甘味料をいれて中弱火3分ほど煮込む。 4.「2の茹でた豆腐」をざるに上げ、木べらで崩して余分な水を抜く。「3.」のフライパンに加え、さらに3分ほど煮込む 5.味見する。豆腐の水分と煮汁の量で毎回味が変わる。やや甘め、醤油強めに調整する(味が濃すぎたら最後の卵を1個増やすと良い) 6.火を止めてネギを投入。卵でやわらかくとじて完成。

ご飯の友によし、酒の肴によし。 肉をアサリやイカに代えてもいいし、京都の美味しい生麩でベジタリアン仕立てにしても最高。 地味だけど、ほっとする味です。 ・ ・ ・ バトンの次の渡し相手を考えていて、ふと思ったことがあります。 ステイホーム=三食とも家で食べ続けていると、どうしても献立のレパートリーが決まってしまいがち。 だから、テイクアウト料理やクッキングサイトのメニュー、そしてこの料理リレーのような「誰かの味」を採り入れるのは名案だし、むしろ必然ですよね。

けれど、今回の厄災で、みなが改めてフォーカスしているのは、なによりも「オンとオフのバランス」だったり「家族の在り方」ではありませんか? こうしたレシピはあくまでキッカケ。むしろそこから「このレシピどうだった? みんなはつぎに何を入れてほしい?」と食卓で会話して「我が家の味(ホームスペシャリテ)」に育て上げることこそがもっとも大切ではないかと。

ゆえに、ぼくが次にバトンを渡したいのは、二度の戦争と大きな直下型地震を乗り越え、健やかな日常生活を過ごしきった明治生まれの浅草っ子&神田っ子のご婦人たち。 すなわち、この2冊の紹介をもってゴールとさせてください。

「わたしの台所」沢村貞子著 1981年刊行 「料理歳時記」辰巳浜子著 1973年刊行

台所に立つ、料理を作るという行為の向こうに、よりよく生きるためのヒントがあります。 どちらの本にも、ハードな毎日を気楽に過ごすための叡智が詰まっています。

充実した日常生活があれば、タフな状況にもへこたれずに進んでいける。 すてきなおうち時間を過ごされんことを。 そして、ともに乗り越えた世界で、笑顔でお会いしましょう!


酒は百薬の長 されど万病のもと いいかげんが 良い加減 シンスケ 矢部直治

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