グラスに込めた機能性
瓶ビールのコップは、かつてビールメーカーが配布していた販促品(※現在は一般販売)が量産品としての完成形です。
ぴったり180ml入る機能性、2000℃の高温で圧縮成形することで実現した割れにくさ、そっけなくも凛々しいフォルム。しかも安価と最高の品質です。
ただ、強化ガラスであるがゆえに、ミクロではガラス表面に凹凸がなく、液体(とくに炭酸)を弾いて泡立ちさせすぎること。
吞み口が厚くて丸い形状なため、飲んだ時の爽快さに欠けることが欠点でした。
そのため、例えば小瓶334mlをこのコップに注ぐと、理論上は泡を入れてもぴったり2杯注げる(180ml×2=360ml)はずなのに、必ずビールが泡立って2杯半くらいになってしまう。
だから呑み手はみな、やむを得ない行為として瓶ビールを逆さに振って最後の一滴までコップに注ごうとする。
・・・カウンターの内側からの視点として、自分はこの酒呑みの習性をどうにかエレガント化できないかとも考えていました。
手吹きのガラス容器はその点、ミクロでは表面が凹凸しているため液体を弾かずに底へ流しビールを泡立ちすぎさせない。
しかも厚みは調整が効き、口はシャープに切り立っている。
ただし、その反面とても繊細で、「うすはり」過ぎれば破損が気になって酔うに酔えない。
そこで酒器として、
(1)薄すぎず厚すぎない絶妙なガラス厚
(2)軽すぎず重すぎない絶妙な重量
(3)ヒトが一口ぐびりと飲む容量と、その量を喉に流し込みやすいベストな仰角
(4)小瓶をぴったり2杯飲み切れるサイズ
の実現を目指しました。
2021年にわかったのは、(1)がいかにめちゃ振りな依頼であり、(2)が木村硝子店およびガラス工場史上初の無理難題だったかということ。
同じ大きさに吹くことでさえ熟練の技術がいるのに、出来上がりの重さまで指定というのは前代未聞。
厚いのも薄いのも実現可能だが、その中間の厚みは職人に呼吸量のコントロールを強いる=アスリートなみの肉体操作が必要。
いやはや無知とは恐ろしい。
しかし、この要望を本当に実現してしまうのがプロフェッショナルのすごみです。そして、だからこそこの技術の保存と継承が必要になりました。
めちゃ振りの丸投げ注文をしておいてなんですが、今回の一般販売には、
【世界的にも稀有なこの超絶技術が、ジャパンクオリティとして国内外に高く評価されて欲しい。他の特注依頼にもどんどん活用して広めていただきたい】
という願いも込めています。
容量を瓶ビールに特化させる
さて、(4)の『小瓶をぴったり2杯入れる』という機能性を追求していて、瓶ビールには隠れた法則があることに気付きました。
小瓶334ml
中瓶500ml
大瓶633ml
この容量は1940年の酒税法に準拠し、全ビールメーカー共通なのですが、じつは小瓶と中瓶は167mlの倍数になっているのです。
(小瓶でコップ2杯なら中瓶では3杯、大瓶では4杯弱)
このコップを使って2人で瓶ビールを飲むとき、ひとりは3杯飲みたくて、もうひとりは2杯で十分だとします。
ならば、中瓶1本と小瓶1本をそれぞれ注文すればちょうどよく、中瓶を2本注文するのは過量・・・となるわけです。
つきまして、コップの高さは167mlのビール液に対して、泡が7:3あるいは8:2の比率になるように計算して求めました。
また、泡立ちに対しても、強化ガラス製ビールコップのように『コップを斜めにして慎重に注ぐ』のではなく、『ふつうに置いて、ふつうに注ぐ』やり方で上記の黄金比になるよう仰角にも調整を加えています。